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大阪高等裁判所 平成9年(行コ)13号 判決 1998年5月26日

大阪市生野区巽中一丁目七番一〇号

控訴人

慎秀一

右訴訟代理人弁護士

西口徹

寺内清視

千田適

三浦直樹

大阪市生野区勝山北五丁目二二番一四号

(送達場所)大阪市中央区谷町二丁目一番一七号

被控訴人

生野税務署長 山添元昭

右指定代理人

谷岡賀美

西浦康文

平田豊和

村松徹哉

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一申立

一  控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人が平成元年三月一〇日付で控訴人の昭和六〇年分所得税についてした更正処分(以下「本件更正処分」という)及び過少申告加算税賦課決定処分(以下「本件決定処分」といい、右各処分を合わせて「本件各処分」という。)につき、本件更正処分のうちの分離長期譲渡所得金額一五〇〇万四〇〇〇円、これに対する税額三〇〇万〇八〇〇円を超える部分及び本件決定処分の全部を取り消す。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  控訴の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

当事者の主張は、次のとおり付加・訂正するほかは、原判決「事実」欄「第二 当事者の主張」(原判決四頁三行目から同一七頁四行目まで)記載のとおりであるから、これを引用する。

1  文中「原告」とあるを「控訴人」と、「被告」とあるを「被控訴人」と、「別紙」とあるを「原判決添付別紙」と、「別紙」とあるを「原判決添付別表」と各訂正する。

2  原判決一一頁八行目と九行目の間に、次のとおり付加する。

「(四) 西田は、保育園を建設するための敷地として控訴人から本件土地を取得したもので、右目的のためには、控訴人も本件建物等を撤去し本件土地を整地して西田に引き渡す必要があり、本件持分取得は右撤去・整地が条件となっていた。したがって、撤去されるべき本件建物等の残存価格は控訴人の負担となるのであるから、撤去・整地費用はもとより本件建物等の残存価格も、本件持分取得に要した損失ないし出費として取得費に含まれると解すべきである。

(五) 本件契約当時、本件土地上に本件建物等が存在したことは、甲四など控訴人提出の各書証、原審における控訴人の供述により明らかであり、被控訴人提出の検乙一ないし四によってもその存在を否定することはできない。もっとも、本件建物等の位置・形状等に一部不鮮明な部分はあるが、これは撮影角度及び日影の影響によるか、または賃借人(控訴人は一時本件建物等を賃貸していたことがある。)により本件建物等の一部が改造されたためであり、本件建物等の同一性は否定されない。

なお、甲四には工事場所、工事内容等の具体的明細の記載はないが、控訴人が他の解体・整地工事を新井組こと新井義雄(以下「新井」という。)に依頼したことはなく、工事時期、場所及び内容を記載しなくとも、本件撤去・整地工事を特定できると考え、あえてこれを記載しなかったにすぎない。」

3  同一四頁末行目末尾に続けて改行の上、次のとおり付加する。

「在日本朝鮮人商工会(以下「商工会」という。)に加入する在日本朝鮮人の税金問題については、昭和五一年一〇月に商工会と国税庁の間で、すべての税金問題は商工会と協議して解決する等を内容とする五項目の合意(以下「本件五項目合意」という。)がなされていた。ところが、本件処分に至る経緯は前記のとおりであって、本件各処分は五項目合意に違反しており、この点も考慮し本件各処分の違法性を判断すべきものである。」

4  同一五頁八行目末尾に続けて改行の上、次のとおり付加する。

「本件持分は法五八条一項の適用を受けて取得した資産の一部であるが、右取得資産を譲渡した場合の譲渡所得の金額の計算上控除できる取得費とは、法五八条一項の譲渡資産の取得費と、譲渡に要した費用及び取得資産を取得するために要した経費の額を加算した金額とされている(法五八条五項、法施行令(以下「令」という。)一六八条)。そして、本件建物等の残存価額及び撤去・整地費用は、本件契約による譲渡資産である借地権の取得費には当たらないし、また、令一六八条三項の取得資産を取得するために要した経費とは、取得資産の取得のために直接必要な経費をいうのであるから、本件建物等の残存価額及び撤去・整地費用はこれにも当たらない。

むしろ、控訴人主張の費用は本件契約により譲渡した資産に係るものと考えられるが、令一六八条の譲渡資産の譲渡に要した費用とは、資産を譲渡するために通常、直接必要とされる支出に限られる。ところが、原審における控訴人の供述によると、本件契約締結の際西田との間では、本件土地上の建物等について何ら取壊しの取決めはされておらず、また、西田から取壊しを依頼されたわけでもなく、控訴人自身が教育事業に協力するということで自ら解体・整地したというのであるから、控訴人主張の撤去・整地費用出捐が事実であったとしても、資産譲渡のために通常、直接必要な費用と認めることはできないから、譲渡費用には当たらない。」

5  同一七頁四行目末尾に続けて改行の上、次のとおり付加する。

「本件五項目合意がなされたとの事実は否認する。国税当局が、いかなる団体あるいはその会員に対しても、特定の取扱いをし、あるいはそれに関する合意をするということはありえず、商工会と国税庁の間で合意がされたとの控訴人主張はまつたく根拠がなく、右合意成立を前提とする控訴人の主張はいずれも失当である。」

第三証拠関係

証拠関係は、原審及び当審記録中の証拠関係目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

第一  当裁判所も、控訴人の本件各請求はいずれも理由がないから、これを棄却すべきものと判断する。その理由は、次のとおり付加・訂正するほかは、原判決「理由」欄(原判決一七頁六行目から同三二頁一行目「原告の請求は理由がない」まで)記載のとおりであるから、これを引用する。

1  文中「原告」とあるを「控訴人」と、「被告」とあるを「被控訴人」と、「別紙」とあるを「原判決添付別紙」と、「別表」とあるを「原判決添付別表」と各訂正する。

2  同一九頁六行目から同二三頁五行目までを次のとおり訂正する。

「(一) 控訴人は、まず、本件契約当時の本件建物等の残存価格が、本件譲渡収入にかかる譲渡所得の計算上、控除されるべき取得費に該当すると主張する。

しかし、前記のとおり本件持分は法五八条一項の規定の適用を受けて取得された資産であり、これを譲渡した場合に控除される取得費は、法五八条五項、令一六八条により、控訴人が昭和四一年七月ころから有していた借地権の取得費及びその譲渡に要した費用のうち本件持分に対応する部分並びに本件持分の取得に要した経費の額を加算した金額とされている。

そして、本件建物等の残存価格が本件契約により放棄した借地権の取得費に当たらないことは明らかである。また、本件契約当時、本件土地上に控訴人主張の本件建物等が存在したことを認めることのできる的確な証拠がないし、仮に、本件契約当時、何らかの残存価格を認めることのできる建物等が存在したとしても、右残存価格を譲渡費用と認めることもできないことは、後記撤去・整地費用について判断と同様である。

したがって、いずれにしても、この点の控訴人主張は理由がない。

(二) 次に、控訴人は、本件建物等の撤去・整地費用が取得費に該当すると主張する。そして、原審における控訴人本人尋問(甲六、一〇の陳述書の記載を含む。以下同じ)において、前記事実摘示四(被控訴人の主張に対する認否及び控訴人の主張)2の(一)ないし(五)に沿う供述をし、これを裏付ける証拠として甲四(新井作成の控訴人宛て六八七万円の領収書)を提出し、甲七(新井春盛こと朴正錫作成の陳述書)、甲八(玄華宗の陳述書)にもこれに沿う供述記載がある。

しかし、検乙一ないし四(建設省国土地理院作成の本件土地付近の各空中写真、同一は昭和六〇年六月六日撮影、同二は昭和五九年四月二四日撮影、同三は昭和五四年九月一一日撮影、同四は昭和五〇年三月四日撮影)によるも、本件契約締結(昭和五七年三月)以前の昭和五〇年三月四日及び昭和五四年九月一一日当時、本件土地上に控訴人主張の鉄柱、門柱及びフェンスが存在したことを確認することができないし、昭和五〇年三月四日当時、本件土地の南側部分に建物が存在していたことは認められるものの、昭和五四年九月一一日当時の建物とは形状が異なり、この間その形状が変えられたか、又は別の建物に建て替えられた可能性が高く、その同一性は疑わしい。

また、右各写真によると、昭和五〇年三月四日当時には控訴人主張の温室の存在を確認できるものの、本件契約締結以前の昭和五四年九月一一日時点ではすでに右温室は存在せず、本件契約の二年以上前に撤去されていたことが明らかであり、控訴人主張の事務所についても、昭和四一年に建築されたバッテイングセンターの打球場の建物の一部であるといえるかについても疑問がある。そして、控訴人主張の事務所及び温室はいずれも未登記であり、その設置時期、設置費用、構造、撤去時期を明確に立証する的確な証拠がない。

更に、甲四には「解体及び整地」との記載はあるが、工事場所、内容等の具体的明細の記載もないし、作成日付の記載すらもなく、その工事時期、場所及び工事内容を明らかにすることができない。なお、原審における控訴人の供述によると、本件契約以前にも、本件土地及びその付近において控訴人所有の建物等の撤去や移動等が行われていることが窺われ、甲四の費用がこれらの工事に要したものであった可能性も十分に考えられ、甲七、甲八も原審における控訴人の供述以上の証拠価値を認めることはできない。

のみならず、控訴人は、原審段階の当初、撤去・整地時期は昭和六〇年一月ころであり、撤去・整地費用は公社への本件持分の譲渡に要した費用であると主張し、その後被控訴人から、公社への譲渡以前に撤去・整地が行われているのであれば譲渡費用にはならないはずであるとの指摘を受け、主張を訂正した経緯がある。

以上のとおり、控訴人主張の本件建物等の存在と撤去・整地費用については、これを認めることができない。なお、本件契約当時、本件土地上に何らかの建物等が存在し、本件契約締結に際し控訴人が撤去・整地したとしても、控訴人自身が原審において、本件契約締結に際し、西田から取壊しを依頼されたわけでもなく、教育事業に協力するということで自ら解体・整地したと供述しているところであって、右費用を資産を譲渡するために通常、直接必要な費用、すなわち譲渡費用と認めることはできないものというべきである。

したがって、この点の控訴人の主張も理由がない。」

3  同三一頁一〇行目末尾に続けて改行の上、次のとおり付加する。

「なお、控訴人は、商工会に加入する在日本朝鮮人の税金問題については、昭和五一年一〇月に商工会と日本国税庁の間で、すべての税金問題は商工会と協議し解決する等を内容とする本件五項目合意がなされており、本件各処分は右合意に違反する旨主張する。

しかし、国税当局が、いかなる団体あるいはその会員に対しても、特定の取扱いをしあるいはそれに関する合意をするということはあってはならないことであるし、また本件では、このような合意のなされた事実を認めることのできる的確な証拠もなく、右合意成立を前提とする控訴人の主張は理由がない。」

第二  以上の次第で、原判決は相当であって、本件控訴は理由がないので、これを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法六七条、六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 中田耕三 裁判官 高橋文仲 裁判官 中村也寸志)

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